三毛犬ジョニーへの伝言

旧「自堕落な蟻」 ブログ名変えました。ジョニーは昔飼っていた可愛いビーグルの名前です。

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ケッヘル 中山可穂

伽椰は海峡の町で出会った男、遠松鍵人に職を斡旋される。モーツァルトの音楽に取り憑かれた男と、過去の亡霊から逃げ続ける女。出会うはずのない2人の人生が交差した瞬間、狂おしい復讐の幕が上がる。
(アマゾンの商品説明より)

中山可穂作品はほぼ読んでいるのですが、本作は上下巻1000ページという大長編なので、なかなか手を出せずにいました。
が、本日ようやく読了。

夫の上司の妻と身を焦がすような激しい恋に落ち、冷酷な恋人の夫に追われて異国に逃亡し、三年の間彷徨う木村伽耶。

片や風変わりで優雅な、 モーツァルト狂の遠松鍵人。

まるで接点のなさそうなこの二人の主人公の出会いから、物語は始まります。

遠松鍵人は日本に居場所の無い伽耶に、鎌倉の自宅のアパートを貸し、自身が社長を勤める風変わりな旅行社「アマデウス旅行社」に就職をさせてくれます。

ところが伽耶が世話をした旅行客が、旅先で自殺するという事件が起き・・。


一章ごとに物語は伽耶の視点、鍵人の視点に変わり、進められていきます。

上巻はどちらの物語も面白くて、章が切り替わるごとにもっと先を知りたくてがっかりしたほどです。
この二人の物語はどこで交差するのか、わくわくしながら読んでいました。

下巻に入り、あの男が二人にとって共通の敵でだったのか、と気づくと、ある程度物語の先は読めてきましたが、それでもやはり中山可穂さんの筆力は凄いので、「嫌な展開だなあ」と思いつつも一気に読みきってしまいました。

でも・・。

鍵人の最愛の女性、美津子の遭遇したあまりに悲惨で残酷な体験に、胸が抉られるような痛みを感じました。

とんどの女性がそうでしょうが、私はこの手の性暴力が死ぬほど嫌いです。

まして子どもの頃にいたずらをされたおぞましい記憶のある、潔癖な美津子の受けた傷は、死よりも酷い、
安易な想像を絶するものだったはずです。

首謀者である「あの男」は無論ですが、私は共犯の男達が上巻で伽耶に対してはいたって紳士だったり、気のいい男であるのが、むしろ私はかえって腹立たしかった。
たとえ彼らが年を経て変わってきたにせよ、やはりあの事件での彼らの所業は許せないです。


彼らは「ある復讐者」によって順に殺害されるのですが、首謀者の男があっけなく爆死するのも納得いかなかったです。

いかに惨い死に様といえど、死は誰にもいずれ訪れるものであり、現世の苦しみからの解放であり、永遠の安息ではないでしょうか。

美津子が穏やかな死によって、全ての苦しみから逃れられたように。


あんな悪人は、醜く生きればいいのです。

伽耶がしようとしたように、30年近く前の彼らの悪事を明るみに出すことで、全ての権威を失い、世の人々の軽蔑の視線を受けながら、地を這うように醜く生きればいいのです。

共犯の男達も同様に。

いかに美津子を愛していたにしても、その感情が捩れていったにしても、妙な薬を打たれていたとしても、ひどく後悔していたにしても、彼ら共犯者のしたことは到底許されるものではありません。

あの事件の後、美津子がどれほどの苦しみを背負いながら生きてきたのかを想像すると、心が痛みます。

死よりも、時に生きぬくことのほうがはるかに辛いことだと思うから。

後からふと思ったのですが、この美津子の悲劇、以前世間を騒がした早稲田大学のレイプサークル、「スーパーフリー事件」を元にしているのかもしれませんね。
あれもニュースを見ているだけで辛くなるほど、酷い事件でした。


閑話休題。

主人公の伽耶は、中山作品によくあるようにレズビアンですが、ひとつの恋に一途ではなく、割とあっさりと天才ピアニスト、安藤アンナと恋に落ちてしまいます。
この点ちょっと拍子抜けしました。

伽耶はまるで狂言回しのような存在です。私は彼女自体にはあまり魅力を感じませんでした。


本作でもっとも際立って魅力的だったのは、鍵人の父の鳥海武です。

破天荒で全く身勝手で、女好きの男ですが、どんな女性でも美点を見つけて愛する才能を持つ男です。

ボロボロのアップライトでも名だたる名機でも、ピアノなら何でも愛するように。

決してほめられた人間ではないのですが、女性への愛を表現する、という点で、鳥海武と共犯の男達とでは、まるで雲泥の差です。

彼と子供の鍵人が、ケッヘル番号に従って、西へ西へと旅する章は、本当に面白かった。

下巻を読み返すのは辛いけれど、上巻の鳥海武親子の流転の旅の箇所は、何度でも読み返したいです。

鳥海武は、本作のみならず私が今まで読んだ中山作品で、もっとも魅力的な男性登場人物でした。



でも他にも、すし屋のあゆみちゃんとか、美津子の父親とか、無愛想なよし子ちゃんとか、コオロギさんとか、アロイジアとか、もっと掘り下げて欲しい、気になる人物が沢山いました。

そして何より蟹沢くん。
あなた一体何者だったの?


決して退屈はしませんでしたが、下巻は辻褄の合わないところも見られ、消化不良ぎみでした。

ちょっと風呂敷を広げすぎかなあ。

美津子の悲劇の衝撃が読み終えてもなかなか去らず、正直全てを読み終えてから哀しい気持ちが心に残る物語でした。

ケッヘル〈上〉 (文春文庫)ケッヘル〈上〉 (文春文庫)
(2009/05/08)
中山 可穂

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