三毛犬ジョニーへの伝言

旧「自堕落な蟻」 ブログ名変えました。ジョニーは昔飼っていた可愛いビーグルの名前です。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「愛の年代記」 塩野七生

イタリア中世末期からルネサンスにかけての、様々な恋愛のかたちを描いた短編集。

高校生の頃、初めてこの本を読みました。

勿論20年以上たった今では、ほとんどのお話を忘れているのですが、一編の悲しいお話だけはいつまでも強く印象に残っています。

大貴族の庶腹の娘ジュリアが、メディチ家のお姫様とある公国の公子との結婚の前に、公子に男性としての能力、つまり性行為をする能力があるかどうかを試すための、実験台にされるお話。
たとえ召使の子であっても貴族としての矜持を持つジュリアは屈辱に思いますが、拒否すれば無一文で修道院に送られ、下女のような扱いを受けるのは目に見えているので、ジュリアは渋々実験台になることを承知します。
 彼女にとってさらに不運なことに、公子は偉ぶらない魅力的な人物で、ジュリアは一時のお相手に過ぎない公子に恋をしてしまいます。
妻にはなれなくとも、もしかしたら公子は自分を愛妾に迎えてくれるかもしれない、そこまでいかなくともまた会いに来てくれるかもしれない。
 ジュリアの期待は酷くも裏切られ、彼女にはもとの庶民としての暮らしが待っていました。
公子とメディチ家のお姫様の結婚式が華々しく行われるなかで、彼女は子を身ごもっていることに気が付きました。
やがて元気な男の子を産み落とします。
その子は父親である公子のもとに送られるも、認知されず、庶子としての扱いすら受けられませんでした。

以上が記憶していた大体のあらすじです。
他にも印象的な短編が多くあり、面白いと感じた記憶はあるのですが、20年以上たってあらすじを覚えているのはこの一編だけです。
ジュリアの無念さ、口惜しさ、惨めさ、哀しさ、その間に見た、つかの間の幸せ。

彼女の気持ちが胸に迫ってきて、数日彼女のことばかり考えていました(受験生だったんですけどね・・汗)。

誇りを持ちつつも、慎ましく分をわきまえて暮らしていた人が、目下のものの気持ちなど露ほども思いやらない傲慢な貴族に踏みにじられる。
何と言う理不尽か。

これは市立図書館で借りた、ハードカバーの本だったように思います。


先々月書店でこの「愛の年代記」の文庫を見つけました。
今読んだらまた違う感想を持つのではないか、自分の記憶とは多少違うのではないか、一番気になるのはこれらは実在した人物の話なのかどうか、出典があるのだろうか、、様々な疑問が湧き上がり、もしかしたら高校生のときのように読んだあと気が滅入るかもしれないなあと案じつつも、購入し再読しました。

収録されているのは短編9篇。


●「大公妃ビアンカ・カペッロの回想録」
古い貴族の娘に生まれたビアンカが恋人と駆け落ちしたり、トスカナ大公の皇太子に見初められて愛妾になったりしながら、正式な大公妃に昇りつめるまでの一代記。
面白すぎると思ったら、19世紀末に出た同名の偽古文書が土台なんだそうです。
古文書偽造はある時期、インテリ貴族の道楽だったんだそうで・・。
古文書偽造・・どこの国にもあるんだなあ。
お話は面白いけれど、私はこの主人公にあまり共感できなかったです。
貴族の娘なのに思慮が浅く、その場の感情で動いて周囲を巻き込んでいるように思います。

●「ジュリア・デリ・アルビツィの話」
私が覚えていたのはこの小説でした。
読み返してみて、その短さに驚かされました。
自分の印象の深さからか、中篇程度の長さと記憶していました。
あらすじに記憶違いはないものの、細部はさすがに忘れていました。

マントヴァ公国の公世子の最初の結婚が、相手の姫君の身体的欠陥によって破綻したこと。

二度目の結婚相手としてトスカナ大公の公女が決まったが、姫君の継母(前章のビアンカ)が、「相手の体に欠陥があるのではないか」と、結婚前にマントヴァ公子に「実験」を薦めたこと。

実験の相手にされた貴族アルビツィ家の私生児であるジュリアには、その見返りとして三千スクードの報奨金、そしてそれを持参金として夫を見つけてやる、という約束がトスカナ公国の大臣と老アルビツィ伯の間でなされたこと。

そして、読み返してみて驚いたのは、ジュリアの嫁いだ相手がメディチ家の宮廷音楽家、カッチーニだったということです。

ジュリオ・カッチーニ

西洋音楽史に名高い、大物作曲家ではないですか。

たとえカッチーニの名前を知らない人でも、クラシックに全く興味のない人でも、カッチーニの「アヴェ・マリア」は耳にしたことがあるはずです。
(実はカッチーニ作ではないというこぼれ話はさておき)

そして、娘のフランチェスカ・カッチーニ。
13歳でメディチ家の宮廷で声楽を披露した天才少女で、世界初の、女性オペラ作曲家。

フランチェスカは、哀れなジュリア・デリ・アルビツィの娘なのでしょうか?

私の中で哀しげに俯いていたジュリアのイメージが、突然光彩を放ち始めました。

本当のことが知りたくて、ジュリア・デリ・アルビツィの名をネットで検索しまくりましたが、ウィキぺディアをはじめ、出てくるのはこの「愛の年代記」そのままの記述ばかりでした。
参考文献を見てみると、塩野七生「愛の年代記」のみ。

塩野七生先生はあとがきに「創作のヒントを得た史料」として、各短編の元になった史料や作家について書かれています。
この短編については「ヴェネチア、マントヴァ、フィレンツエの年代記をもとにしました」とのこと。
登場人物や起こった出来事はたとえ史実でも、「愛の年代記」は創作小説です。

司馬遼太郎の小説の人物評価がそのまま信じられたりすることが今でもよくありますが、歴史小説と歴史の間は、できるだけ線引きしてくれると助かります。
私のような無知でズボラな人間は、お手軽に得たネット情報をそのまま信じてしまいかねません。

ネットはあまり役に立たなかったので、今西洋音楽史とイタリアの歴史本を図書館で何冊か借りて読んでいます。
ジュリア・デリ・アルビツィについて書かれている(らしい。すんなりとは読めない)洋書も取り寄せました。

近くの図書館で集められる程度の情報ですから、あまり収穫はないかもしれませんが・・。

小説の話に戻ります。

●エメラルド色の海
王妃の身代わりとして、海賊ウルグ・アリと対面したピアンカリエリ伯爵夫人。
このたった一度の出会いと思い出が、彼女のその後の人生を照らし続ける・・。

なんていいお話なんだろう。この本の中で一番好きです。
高校生のころ読んだときは読み飛ばしていたのか、あまり記憶に残っていなかったのが不思議です。

こういうプラトニックなお話は、若い娘より中年の心に、より訴えかけるものがあるのでしょうか・??

誇り高く賢い伯爵夫人が、ウルグ・アリから贈られた錦を広げて、声を放ってなく場面が特に好きです。

「悲しかったからではない。嬉しかったのだ」

「愛の年代記」は初期作品だけれど、どちらかというと難解でお堅いイメージのあった塩野さんが、こんな優しい話を書いていたなんて・・と驚きました。

●パシリーナ侯爵夫人の恋
年の離れた侯爵に嫁いだパシリーナが、義理の息子とただならぬ関係になって、愛人ともども夫に処刑されてしまう話。

●ドン・ジュリオの悲劇
ルクレツィア・ボルジアの女官アンジェラの、無思慮な言葉によって引き起こされるフェラーラ公国エステ家兄弟の騒動。

「良いことも出来なければ、かといって悪事に徹底することもできない人とは、何もできない人間ということになる。こういう種類の男たちに対して、ルネサンスという時代は厳しい時代だった。」

今の日本の政治家がもしこの時代にいたら、ドン・ジュリオと同じ目にあいそう。間違いなく。

●パンドルフォの冒険
信心深く貞淑という評判の40女が、年の離れた愛人(パンドルフォ)を持つ。
死期が近づくなか、愛人への思いを断ち切れない彼女は、ある計略を用いて愛人を道連れにしようとする。

こういう話、岩井志麻子がうまく書きそう。
勿論舞台は岡山の山村で、カッサパンカ(嫁入り道具の長箱)は腐りかけた長持ちで。

●フィリッポ伯の復習
年若い妻を愛し、我侭を許してきたフィリッポ伯だが、妻の不貞には烈火のごとく怒り、不倫相手よりも妻に対して残酷極まりない拷問を受けさせ、最後は彼女を生きたまま壁に塗りこめてしまうという、怖いお話。

わりと最近、これと同じ話を読んだような気がするんです。
コンビニでよく500円で売っている「世界の残酷話」とか「血塗られた世界史」とか刺激的なタイトルの付いた雑誌本でです。

「愛の年代記」のあとがきでは「イタリアの短編作家パンデッロの作品からヒントを得ました。」とありました。
創作を基にした創作のはず。

もしかして塩野作品を史実と信じた人が書いたのでしょうか・・?
それとも大元のパンデッロの作品の、創作のヒントとなった歴史事実があったのでしょうか。

あのコンビニ本を家中探してみたけれど、どうも捨ててしまったらしくて、確認することができません。

●ヴェネチアの女
司教の秘書を勤める真面目な男が、女によって転落していく話。
女性に夢を持ちすぎてはいけません。

●女法王ジョバンナ
伝説の女法王のお話。
貧しい生まれから生来の賢さをもってのし上がっていく男装の修道士、ジョバンナ。
小説として面白いです。
読みはじめたらとまらない。
ただ、ジョバンナが本当に実在したとは思えないです。

ミサの最中に出産して死んでしまうという最期が、あまりに女性性を強調していて作り物めいて見えるのです。

でも作者の言うとおり、これが本当なら、同性として痛快に思います。


最後に。塩野七生さんというお名前。七夕生まれだからなのだそうです。
私と同じ誕生日だったんですね!








追記

フィリッポ伯の復讐のお話について。
コンビニで買った雑誌本というのは私の勘違いでした。

この話を読んだのは、桐生操さんの著作ででした。

史実なのかなあ・・これ。。
スポンサーサイト
456:

明石さんの書評に心動かされ、
ネットで注文しちゃいました!

今日ぐらい着く予定w
楽しみですv-345

2011.07.14 07:31 ゴエ #8iCOsRG2 URL[EDIT]
457:嬉しいです♪

あんなまとまりのない長い感想文を読んでくださってありがとうございます。

題名が気恥ずかしいけれど、良い本ですよ。

あれからジュリアやカッチーニについての本を何冊か読んだのですが(洋書とも英和辞典片手に格闘中~)、創作と史実のあまりの違いに驚くばかりです。

作家の想像力ってすごいなあ、本当に。。

2011.07.15 01:21 明石 #- URL[EDIT]

管理者にだけ表示を許可する
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。